鼻について
鼻はにおいをかぐという嗅覚器としての機能だけでなく、呼吸器官としても重要な役割を担っています。肺や気管を守るために吸い込んだ空気を加湿、加温するだけではなく、ウイルスや細菌、ほこりが体内に入り込まないようにフィルターの機能も兼ねることで、肺に清浄な空気を送り込むことができます。
鼻が病的な状態となり、吸い込んだ空気を浄化できなかったり、口呼吸になったりすると、ウイルスや細菌がのどや肺に入りこみ、いろいろな悪影響をもたらしてしまいます。
こんな鼻の症状はご相談ください
- くしゃみ
- 鼻水
- 鼻づまり
- 鼻がかゆい
- くさいにおいがする
- においがわからない
- 痛み(鼻、ほっぺた、おでこ、目、奥歯)
- 鼻血
- いびき、口呼吸 など
代表的な鼻の疾患
アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎の3大症状はくしゃみ・鼻水・鼻づまりです。アレルギー性結膜炎も併発し、目のかゆみ・涙目がでることもあります。
アレルギー性鼻炎について詳しくは→こちら
副鼻腔炎
鼻の奥にある副鼻腔(前頭洞・篩骨洞・上顎洞・蝶形骨洞)で炎症が起こることで、様々な症状が現れる疾患です。原因としては風邪(ウイルス感染)や細菌感染、真菌(カビ)感染、虫歯、アレルギー性鼻炎、好酸球炎症があげられます。
急性副鼻腔炎
ウイルス性の急性上気道炎(感冒)に続いて副鼻腔に細菌感染を併発することが原因です。適切な治療を行えば1ヶ月以内に改善します。
慢性副鼻腔炎
副鼻腔炎のうち3ヶ月以上症状と炎症所見が続くものと定義されます。大きく分けて以下の5つに分類されます。
細菌性副鼻腔炎
急性副鼻腔炎が契機となって生じた炎症が遷延化した状態です。症状は、両側のほっぺたや目の痛み、頭痛、くさい鼻水などです。
真菌性副鼻腔炎
真菌(カビ)の感染は左右どちらかに偏ることが多いため、左右どちらかのほっぺたの痛み・重み、くさい鼻水のことが多いです。
歯性上顎洞炎
上の奥歯や親知らずが虫歯となり、その炎症が上顎洞に波及し、ほっぺたの痛みやくさい鼻水がでる状態です。左右どちらかのことが多いです。
アレルギー性副鼻腔炎
アレルギー性炎症により粘膜の肥厚や浮腫がおこり、副鼻腔の排泄や換気が障害され、副鼻腔炎を起こしている状態です。ウイルス感染や細菌感染を併発している場合もあります。
好酸球性副鼻腔炎
好酸球(アレルギーに関わる白血球)による炎症です。篩骨洞を中心にポリープができ、初期の症状としては『鼻づまりや鼻水はひどくない嗅覚障害』です。気管支喘息やアスピリン喘息の患者さんに発症することが多いです。
好酸球性副鼻腔炎については→こちら
副鼻腔炎の症状
鼻水
くさい匂い、粘り気が強い、量が多い、のどに流れる(後鼻漏)、痰がらみ
鼻づまり
口呼吸、いびき、鼻声
嗅覚障害
においがわからない、ひどい場合は味覚障害(味がしない)に進展
痛み
頭痛、頬部痛、歯痛、眼痛
目やに・流涙
鼻の粘膜がむくむと涙が鼻に流れられなくなるため、目やにや流涙が増えます。
副鼻腔炎の検査
鼻腔ファイバー検査や副鼻腔レントゲン検査、副鼻腔CT、細菌培養検査、血液検査をおこない、副鼻腔炎の有無と原因を総合的に診断します。当院ではその日のうちに全ての検査をおこない、1週間程度で結果をお伝えしています。
副鼻腔炎の治療
治療は内服薬・点鼻薬の併用に加え、重症のときには鼻うがいをおこないます。クリニックでは鼻水の吸引やネブライザー(薬剤の吸入)、排膿洗浄の処置をおこないます。副鼻腔に溜まった鼻水や膿を排出し、きれいになったところで薬剤を吸入することで粘膜の炎症を和らげます。
ほとんどの場合が急性副鼻腔炎でありすみやかに症状は改善しますが、2週間たっても症状の改善が乏しい場合は慢性副鼻腔炎(症状が慢性化している状態)の可能性があります。
細菌性副鼻腔炎
抗生剤の投与も検討します。
真菌性副鼻腔炎
早い段階より手術が必要となることが多いです。
歯性上顎洞炎
抗生剤の投与を検討し、必要であれば歯科クリニックで歯の治療も同時に行います。
アレルギー性副鼻腔炎
抗アレルギー薬や血管収縮薬の内服を検討します。
好酸球性副鼻腔炎
好酸球炎症を抑えるために抗ロイコトリエン拮抗薬の内服を開始します。
2‐3か月の保存的治療(内服・点鼻・鼻うがい)で改善することが多いですが、治療完了後の鼻腔ファイバー検査と副鼻腔CTで改善がなく難治性の場合は内視鏡下副鼻腔手術(ESS)を検討します。細菌性副鼻腔炎・真菌性副鼻腔炎・歯性上顎洞炎であれば手術後3か月の通院治療で完治となることがほとんどですが、好酸球性副鼻腔炎であれば、手術後3か月経過し症状が改善した後も好酸球炎症を抑制し再発を防ぐため、内服・点鼻・鼻うがいを続け、定期的な外来通院治療が必要です。
内視鏡下副鼻腔手術(ESS)については→こちら
嗅覚障害
鼻腔の奥、目の高さの溝である嗅裂の粘膜には嗅細胞と呼ばれる感覚細胞が存在し、におい物質が触れると、嗅神経から嗅球を介し、脳の側頭葉にある嗅覚野、海馬、扁桃体、視床下部に投射され、においを感じます。この経路のどこかに障害があると、においを感じなくなったり(嗅覚低下・嗅覚脱失)、軽微な悪臭に耐えられなくなったり(嗅覚過敏)、良いにおいをくさく感じたり(嗅覚錯誤・異臭症)といった嗅覚障害がおこります。
嗅覚障害は原因となる部位により、呼吸性、抹消性、混合性、中枢性の4つに分類できます。
呼吸性
におい物質が嗅細胞まで到達できない病態です。アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、鼻腔ポリープ、鼻中隔弯曲症などが原因です。
特に好酸球性副鼻腔炎は、においを感じる場所に限定してゆっくりとポリープが発育するため、鼻水や鼻づまりがあまりないのににおいを感じない、徐々ににおいが失われることが多いです。
抹消性
嗅細胞が冬眠状態のため、におい物質が到達してもにおいを感じない病態です。
- 感冒後嗅覚障害
- 風邪をひいたときにウイルスが嗅粘膜に感染し萎縮や炎症を引き起こした状態です。
風邪が治り鼻づまりが改善されてもにおいが戻らないことで気づくことが多いです。
- 風邪をひいたときにウイルスが嗅粘膜に感染し萎縮や炎症を引き起こした状態です。
- 嗅糸断裂
- 交通事故などで頭部が強く揺さぶられることで嗅神経が切断された状態です。事故の直後より全くにおいを感じないことが多いです。
- 亜鉛欠乏症
- 亜鉛が体内で欠乏することにより嗅細胞が再生されずににおいを感じなくなります。
混合性
呼吸性と抹消性が同時に起こった病態です。
中枢性
嗅神経よりさらに深部である嗅球もしくは脳の側頭葉の障害によりにおいを感じない病態です。
頭部外傷、脳腫瘍、脳出血、脳梗塞、発育障害、加齢などが原因です。パーキンソン病、認知症(アルツハイマー病など)が原因で脳が委縮し嗅覚障害が起きることもあります。
嗅覚障害の原因を調べるには血液検査、鼻腔ファイバー検査、副鼻腔レントゲン検査、副鼻腔CTをおこないます。中枢性が原因と考えられる場合は脳神経外科や神経内科のご受診をお勧めいたします。
嗅覚障害の治療は原因によって異なります。
呼吸性であれば点鼻薬や内服薬、鼻うがいを開始します。改善がなければそれぞれに対応した内視鏡手術をおこなうことで、嗅覚が戻ることが見込まれます。
末梢性であれば、冬眠した嗅神経を起こしてあげる必要があります。傷ついた嗅神経の再生を促すため当帰芍薬散やメチコバールの内服を開始します。亜鉛欠乏では亜鉛の補充が必要です。食事であれば貝類(特にカキ)、牛肉、小麦に多く含まれます。その他、魚介類や海藻類にも多く含まれています。亜鉛欠乏がひどければ内服薬やサプリメントで補充することもあります。
中枢性であれば、脳神経外科や神経内科での治療が必要となってきます。
好酸球性副鼻腔炎
「副鼻腔炎」と「嗅覚障害」でも紹介していますが、難病指定されており、治療が難しい病態のため一つのテーマとして紹介いたします。
好酸球(アレルギーに関わる白血球)が原因となり、嗅裂や篩骨洞と呼ばれる嗅覚に関わる副鼻腔を主体にポリープの増生や炎症が起こります。嗅覚障害が強く出ることが多く、ムチンと呼ばれる粘調度の高い鼻水が特徴的です。鼻づまりはないが嗅覚が落ちているという患者さんも多くいらっしゃいます。
また気管支喘息やアスピリン喘息も好酸球炎症が関わっているため、同時に罹患していることが多いです。
好酸球はアレルギー体質に関わっているため、内服治療や手術で一度症状が改善しても再発の可能性があり、患者さんの中には「手術をしても治らないから手術はお勧めしない」と言われてしまった方もいるかもしれません。
好酸球性副鼻腔炎かどうか臨床的に疑うには診断ガイドラインで示された4つの条件より判断します。
- 両側性の病変であること
- ポリープが存在すること
- 副鼻腔CTで篩骨洞優位の病変であること
- 血中好酸球濃度が高いこと(6-10%は軽度高値、それ以上は高値)
以上を判断するために鼻腔ファイバー検査、副鼻腔CT、血液検査が必要です。
上記により好酸球性副鼻腔炎が疑われた場合は、まずは3か月間、抗ロイコトリエン拮抗薬内服・ステロイド点鼻薬などの薬物治療と1日2回の鼻うがいが推奨されます。特に血中好酸球数が10%未満であれば手術治療を行わなくてもコントロールができる可能性が高いといわれています。
保存治療後の鼻腔ファイバーと副鼻腔CTで改善がないもしくは乏しい場合は、手術(内視鏡下鼻副鼻腔手術)を治療として考えるべきでしょう。
このときの手術は、鼻の中の粘膜やポリープを採取し、病理検査に提出することで好酸球性副鼻腔炎の診断を確定するための検査目的であり、また病状をコントロールする治療目的でもあります。
重症の好酸球性副鼻腔炎は、好酸球炎症が起こりやすいというアレルギー体質が強くかかわっているため、「手術治療で完治を目指す」ではなく、「保存治療と手術治療を組み合わせてうまく病状をコントロールする」と考えることが重要になってきます。
- 手術で副鼻腔を単洞化し、鼻うがいで常に清潔に保てる構造を作る
- 抗ロイコトリエン拮抗薬内服とステロイド点鼻(ときにはステロイド内服)で好酸球炎症を常に低く抑える
このふたつを意識し、手術後も定期的に外来通院で経過観察することで、鼻水、鼻づまり、嗅覚障害が再発しないようにコントロールを行い、もし症状が強まる場合は内服を強め、さらに必要があれば再度ポリープ切除をおこなうなど、病勢の悪化に対して迅速な治療を提供できればと思います。
内視鏡下副鼻腔手術(ESS)については→こちら
鼻中隔弯曲症
鼻中隔と呼ばれる鼻の空間を左右に分ける仕切りの板が、極端に曲がっている、もしくはトゲのように突出しているような状態を鼻中隔弯曲症といいます。
症状としては、鼻がつまる、息苦しい、いびきがひどい、においがわからないといったことがあげられます。アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎を同時に発症している場合は症状はさらに強まることが多いです。
鼻中隔が弯曲しているかどうかは診察ですぐにわかります。弯曲の程度を細かく診断するには鼻腔ファイバーと副鼻腔CTが必要です。
治療はアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎があればその治療を行います。それでも改善しない場合は、曲がった骨・軟骨を取り除く内視鏡の手術を行います。
鼻中隔矯正手術については→こちら
鼻出血症
鼻の仕切りの板である鼻中隔には下記の図のようにとても多くの血管が流入しています。その血管が何らかの原因で切れてしまうと鼻出血がおこります。何もしないで鼻血がでたという方いらっしゃいますがそんなことはなく、鼻の粘膜に対する機械的な刺激が必ずあるものです。何気なしに鼻をこすっていたり、鼻をいじっていたり、鼻を強くかんでいたり、その結果粘膜が傷つき、血管が破綻し、鼻出血がおこるのです。一度鼻出血がおこるとかさぶたができるため、それをはがしてしまうと再度鼻出血がおこります。
1)局所的要因
アレルギー性鼻炎、感冒、副鼻腔炎などの鼻の病気があると鼻水やかゆみのため、鼻をいじったり、鼻をかむ機会が増え、キーゼルバッハ部位に圧力がかかり、鼻出血がおこります。そのほか可能性は低いですが、血管腫や鼻腔がんからの出血のこともあります。オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症)という全身の血管に異常がおこり、鼻出血がおこりやすくなる難病も存在します。
2)全身的要因
血液疾患(白血病や血小板減少症、血友病など)が原因で鼻出血を繰り返すことがあります。血液検査を行い、血小板や凝固因子に異常がないか調べることが必要です。
その他の原因としては、内服している薬剤により血液が固まりにくくなっていることがあります。心臓や脳の病気をお持ちで抗凝固薬や抗血小板薬を内服している方は要注意です。
家でできる対策としては、鼻に圧力をかけない(鼻を強くかまない、いじらない)、鼻の乾燥を防ぐ(マスクや加湿器)ことが重要です。
鼻出血がおこった場合は、洗面器などを用意し、ややうつむいた姿勢で鼻翼を親指と人差し指でしっかりつまんで、圧迫止血を試みましょう。上を向いた姿勢だと血液がのどに回りこみ、胃に流れてしまい気持ち悪くなってしまいます。15分つまんで止まっていなければもう15分つまみましょう。それでも止血されない場合は自宅での止血は困難と考えられるので、病院を受診しましょう。薬剤を使って止血したり、ガーゼをつめて圧迫止血をしたり、電気凝固で焼灼止血をおこなうこともあります。
鼻骨骨折
鼻骨は鼻の上半分を形作っている薄い骨です。薄いため、肘が当たった程度の比較的弱い力でも骨折することがあります。骨折直後は鼻出血がおこりやすく、鼻根部の腫脹や圧痛を伴います。鼻骨レントゲンと副鼻腔CTを行い、骨折しているかの診断を行います。ひび割れ程度であればアイシングと鎮痛薬で経過観察でいいですが、折れた骨の偏位があれば受傷後2週間以内の整復術が推奨されます。
麻酔薬を浸したガーゼを鼻の中に挿入し、麻酔をきかせた後に鉗子という器械で折れた骨をはさみ正常の位置に整復します。その後に鼻の中にガーゼを均等に挿入し固定を行います。2週間程度で骨は癒着しますが、外的な圧力には弱いため1ヵ月程度は再度ぶつけないよう注意が必要です。
鼻腔がん・上顎がん
鼻から発生するがんには鼻腔がんや上顎がんがあります。鼻腔や上顎骨の空洞の中にあるために初期では症状が出にくく、ある程度進行した状態で病院を受診することが多いのが現状です。
症状としては、初期は鼻かぜのような症状(鼻水、鼻づまり)のため放置してしまうことが多いです。進行することで悪臭のある鼻水や重度の鼻づまり、鼻出血が出現します。進展する方向(頭、口腔、眼など)により、頭痛、歯痛、眼痛、ほっぺたの腫れ、視力障害、視野障害などの症状が出現します。なかでも左右の片側だけにこれらの症状があるときには、要注意です。
診断するためには鼻腔ファイバー、副鼻腔CT、副鼻腔MRI、血液検査に加えて、腫瘍を一部採取して病理検査に提出します。
治療は、手術療法や放射線療法、化学療法がありますが、病期によってはそれぞれを組み合わせて行います。大学病院やがんセンターで精密検査と治療が必要ですので、ご相談の上、適切な医療機関へご紹介いたします。