小児耳鼻科とは
小児耳鼻科では、こども特有の症状としてよくみられる耳鼻咽喉科領域の疾患を中心に、お子様の成長を考慮に入れた診療を行っていきます。耳鼻咽喉関連の症状はみられるが風邪かなと思われたり、こどもの耳垢をとってあげたいと思われたりする場合などでも、お気軽にご相談ください。
当院の特徴は、成長期のお子様に対して、自らの治癒力を引き出す目的の、処置主体の治療を実践し、できるだけ、抗菌薬を含めた薬剤の投与を減らし、お子様の健やかな成長を保護者の皆様とともに見守り、治療薬による有害事象(副作用などの好ましからぬ反応)や、不適切な抗菌薬使用による細菌の薬剤耐性化(細菌が抗菌薬に対して抵抗力をもつこと)や、成長後の障害などが生じることのないように、治癒を目指すという方針で小児の耳鼻咽喉科疾患の治療を行っております。そのため、初期の治療時期や病状な不安定な増悪時期には、病状によっては、症状が安定するまで、処方薬の投薬期間を短めに設定し、頻回の受診を指示する場合もありますが、何卒、保護者の皆様のご理解と、ご協力をお願いします。
このような症状が見られたらご相談ください
- 音量を大きくしてテレビを観る
- 聞き返しが多い、返事をしない
- 聞こえが悪くなってきた
- 耳が塞がった感じがするようだ
- いつも鼻がつまっている
- よく鼻水が出ている
- 鼻風邪をひきやすい
- 口をポカンと開けていることが多い
- よくのどを痛がり、発熱する
- のどがイガイガするようだ
- 異物感があるようだ など
小児によくみられる耳鼻咽喉科の疾患
耳垢(じこう・みみあか)
耳垢とは、空気中のほこり、はがれた皮膚、および外耳道の器官から出る分泌液などが混ざり合ったものをいいます。耳垢が外耳道いっぱいにつまってしまうと、耳の聞こえが悪くなることがあります。こどもは成人に比べると耳の穴が小さく、また新陳代謝も活発ですから、成人以上に耳垢が溜まりやすいのです。
耳垢には、虫などの侵入や、細菌感染から外耳道の皮膚を守る働きがあるので、必ずしも完全に除去する必要はありません。耳そうじをやりすぎてしまうと耳垢を奥に押し込んでしまったり、外耳道や鼓膜を傷付けたり、反応性に耳垢の分泌を増加させてしまうことがあるので、注意が必要です。基本的には外耳道には自浄作用があり、外耳道や、鼓膜の奥の上皮は、徐々に外耳道の入り口に移動しながら剥げ落ちて、自然に外耳道の外側に排出するように働いていますので、耳垢を自宅で積極的に取る必要はありません。耳垢が完全に詰まってしまった場合には、無理をせず、耳そうじは耳鼻咽喉科で行うことをお勧めします。
急性中耳炎
生後6ヵ月~5歳頃のこどもに多くみられるのが急性中耳炎です。発症する一番の原因にあげられているのが鼻風邪で、鼻から耳管を通じて中耳に細菌やウイルスが入り込み、炎症が生じて、膿がたまります。お子様が風邪をひき、黄色い鼻水を出しているようでしたら、速やかに耳鼻咽喉科をご受診ください。
症状には、耳の痛み、発熱、耳だれ、耳がつまっている感じ、などがあります。乳児であれば言葉で痛みを訴えられないので、機嫌が悪くなってぐずったり、手でしきりに耳を気にしたりすることがあります。このほか、夜泣き、ミルクの飲みが悪いなどの様子が見られることもあります。
軽症であれば鼻の処置と、抗菌薬は使用せず、上気道炎に対する内服薬の服用による治療で改善します。痛みが強い、熱が高い、膿が溜まって鼓膜の腫れがひどいという場合には鼓膜を少しだけ切開して、溜まっている膿を出す治療を行います。この鼓膜切開により痛みや熱などの辛い症状がはやく改善します。鼓膜の切開で、耳が聞こえなくなるのではと心配なさる保護者の方もおられますが、鼓膜はすぐに再生しますので、差し障りはありません。
難治性中耳炎(遷延性中耳炎 反復性中耳炎)
難治性中耳炎は、急性中耳炎が治癒せずに長期化するものや、治癒後すぐ再発し反復(6ヶ月間に3回以上、12ヶ月以内に4回以上)する状態をいい、抗菌薬(抗生物質)の効かない耐性菌の感染や、低年齢保育、おしゃぶり、兄姉がいて病原菌をもらいやすい、などの外的要因に加えて、患児自身の素因(先天的素因、後天的素因)が関わっているといわれています。
先天的素因としては、低年齢(2歳未満)と免疫力の未熟性が関わっているといわれ、後天的素因としては、中耳炎発症の抑制効果の因子である母乳栄養(分泌型IgA)の関わりが大きいといわれています。
治療はガイドラインに基づいた急性中耳炎にたいする治療をおこないますが、未熟な免疫力を補助する目的で、薬物療法では漢方薬を併用したり、それでも制御が困難な場合、鼓膜換気チューブを留置したりすることもあります。
滲出性中耳炎
鼓膜の奥の空洞状になっている中耳腔という部分に滲出液(炎症のために周囲の粘膜組織からしみ出た液体)が溜まってしまう状態を滲出性中耳炎と言います。乳幼児と高齢者がかかりやすく、乳幼児は耳管(耳抜きのための管)形成が未熟なことから、中耳圧が低下し、滲出液が溜まりやすいと考えられています。
主な症状は難聴と耳が詰まる感覚です。難聴の程度は比較的軽度の場合が多いので、気づくのは遅くなりがちです。なお難聴は、中耳腔内の貯留液によって音の伝播が阻まれてしまうために生じます(伝音難聴)。乳幼児は言語取得に影響することがあり、また症状が長期に渡れば耳が聞こえにくくなることがあります。
症状が長期化する(遷延化)要因には、受動喫煙、保育園の通園、おしゃぶりの使用、低年齢、免疫不全(風邪にかかりやすい 治りにくい)、逆流性食道炎(ゲップをしやすい)などがあり、これらの要因を、可能なかぎり排除するようにします。
特に、乳幼児の成長に関するリスクファクター(感音難聴、言語発達遅滞、自閉症スペクトラム障害、ダウン症、口蓋裂、視力障害など)が合併し、聴力、音声、言語について異常を認める場合は、速やかに積極的な治療が必要になります。
治療は、処置にて、鼻や喉をきれいにするとともに、去痰薬(カルボシステイン)などの内服薬を服用し、自然治癒を促しながら、経過を観察しますが、両耳の難聴が3ヶ月以上継続したり、鼓膜が薄くなり奥に引っ込んだ状態がひどくなったりした場合(病的鼓膜所見)には、滲出液が溜まらないように、一定期間、鼓膜にチューブを挿入します。
当院では、乳幼児の聴力検査を施行することができる臨床検査技師が常駐しておりますので、お子様の聴力が気になる場合は、ご相談ください。
ムンプス難聴
おたふく風邪(ムンプス)の罹患とともに、急激に発症する感音難聴で、ムンプスウイルスの内耳への感染によって生じるとされ、多くは一側性の高度の難聴(まれに両側性)となります。きわめて難治性とされていますが、少数ですが治療効果を認める症例があるため、急性期は突発性難聴に準じた治療を行います。
この疾患の唯一の効果的な予防法は、おたふく風邪ワクチンの予防接種であり、高度の難聴の発症を回避するために、おたふく風邪に未感染のお子様は、是非ワクチン接種をうけてください。
心因性難聴 機能性難聴
難聴の原因となるような耳の疾患を認めず(あっても聴力検査異常の原因とならず)、難聴の自覚症状はあることもないこともあるが、聴力検査では聴力レベルが必ず異常値(変動することが多い)を示す状態がつづく場合に、心因性難聴と診断します。
学校健診などの聴力検査で難聴の疑いと指摘されることで、発見されることが多く、健診で、視力障害を指摘されたり、視野狭窄、腹痛などの心因性の症状が合併したりすることが少なくないといわれています。
この疾患を疑った場合には、専門医療機関へご紹介をして診断と治療を行います。
アレルギー性鼻炎
こどものアレルギー性鼻炎は、成人と比較するとくしゃみが少なく、鼻づまりが多いという傾向があります。さらに目のかゆみや充血などの症状も成人に比べて強く現れがちです。このほかにも、気管支喘息をはじめ、アトピー性皮膚炎、副鼻腔炎、扁桃肥大などの合併症がよくみられるのも特徴です。
アレルギー性鼻炎の症状を軽くするには、成人の場合の治療と同様に家のほこり、ダニのフン・死骸、ペットのフケやカビ、花粉など、アレルギーの原因となるもの(アレルゲン・抗原)にできるだけさらされないような環境づくり(抗原回避)が重要です。
具体的には、部屋をこまめに掃除する、必要の無い物をやたらに置かない、畳をフローリングに変える、などが効果的です。花粉症では、外出時のマスク装用をし、屋内に花粉を持ち込まないように家族が協力することが大切です。
また、規則正しい生活や、家族の禁煙、適切な鼻かみや鼻うがいなどのセルフケアも大切です。
そのような環境を整備しながら、自宅での鼻洗浄(鼻うがい)でアレルゲンを洗い流し、局所薬剤としてステロイド点鼻の噴霧を主体に、内服など併用を検討し症状を抑えていきます。
アレルギー性鼻炎についてはこちらもご覧ください→こちら
小児副鼻腔炎
副鼻腔炎は、副鼻腔(鼻の周りの空洞)の感染症(ウイルスや細菌やカビなどの病原菌による)やアレルギーにより発症し、鼻づまり、鼻水、後鼻漏(鼻水がのどへまわる)、咳などの症状が続き、頭痛や、顔の痛みなどが伴うこともあります。
こどもの場合、成人と比べて、鼻腔がせまく副鼻腔も小さいために、排膿されにくく、反復したり、長期化したりして治り難いという特徴があります。
診断は、症状と、鼻内所見で行い、レントゲン検査などの画像診断や鼻内の細菌検査などを補助的に診断の参考にしながら、治療を行います。また、合併症が疑われる場合は、CT検査を行うこともあります。
治療は、耳鼻咽喉科的処置としての局所治療と、自宅での、鼻の吸引や、鼻かみ、鼻洗浄(鼻うがい)などを繰り返し行いながら、薬物の内服やステロイド点鼻などを使って、治癒を目指します。
急性期の症状が強い時期は、頻回の通院による鼻副鼻腔の吸引洗浄処置や、ネブライザー処置をします。
副鼻腔炎についてはこちらもご覧ください→こちら
アデノイド増殖症 口蓋扁桃肥大 いびき 睡眠時無呼吸症候群
こどものいびきや無呼吸は、一部の先天性疾患や中枢性疾患が原因になることがありますが、鼻疾患(アレルギー性鼻炎、小児副鼻腔炎など)、アデノイド増殖症、口蓋扁桃肥大によるものが大半をしめます。
こどもの場合、無呼吸発作(2呼吸以上の閉塞性無呼吸:5秒が目安)が1時間あたり1回(〜2回)以上あり、いびき、陥没呼吸、体動覚醒、発汗、頸部過伸展、日中傾眠、成長遅延、早朝頭痛、夜尿症などの症状が伴う場合、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
アデノイドや口蓋扁桃の肥大が、口呼吸、いびき、睡眠時無呼吸症候群の原因になるだけでなく、それ以外に、アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎の悪化や、反復する咽頭炎や扁桃炎(習慣性扁桃炎)や、摂食障害や、難治性の滲出性中耳炎などの原因になることがあります。
これらの症状が顕著な場合や、鼻疾患の治療を行っても改善がない場合は、アデノイド切除術と口蓋扁桃摘出術といわれる手術の適応となります。
いびきがひどい、口呼吸がある、摂食障害がある、落ち着きがない、日中傾眠があるなどの症状が気になる場合、アデノイド増殖症や、口蓋扁桃肥大症が原因になっているかもしれませんので、ご相談ください。
いびき・無呼吸についてはこちらもご覧ください→こちら